2016年07月28日

【要約】スナイパーとは何者か?

イラクとアフガニスタンに従軍したスナイパーのノンフィクションである「ザ・スナイパー」
著者であるジーナ・キャヴァローラが、7月7日に起きた米ダラスでの警官射殺事件について、National Interest誌に寄稿した記事を要約。
「スナイパー」という言葉を安易に使うメディアや警察への、本物のスナイパー側からの、反論をまとめています。

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7月7日アメリカのテキサス州ダラスで、恨みを持った怒れる男ミカ・ジョンソンが、パーキングビル3階の開けた場所に陣取り、デモ行進の警護をしていた警察官10人以上をライフルで銃撃し、5人が死亡、7人が負傷した。
警察とメディアは犯人のジョンソンを「スナイパー」と呼んだ。
しかし、実戦経験のあるスナイパー達は言う。
「とんでもない!あんな奴がスナイパーであるもんか!」
【要約】スナイパーとは何者か?


事件からほどなく、軍のスナイパーコミュニティから、元陸軍の殺人犯ミカ・ジョンソンを警察とメディアが「スナイパー」と呼ぶことは、軍の本物のスナイパー達にとって有害であるとコメントした。
メディアはジョンソンの短い従軍経験に飛びつき、彼を訓練された殺人者に祭り上げた。

「ジョンソンがやったことは、なんのスキルもいらない、従軍経験のある人間なら誰でもできることだ。」と、マーク・ヤードレイは語る。
ヤードレイは、元特殊部隊のスナイパーであり、衛生兵だ。彼は9.11後の初期の特殊作戦に数年間関わった。
「プレスの連中は、スナイパーがどんな訓練を経て「スナイパー」になったのかを知りもせず、銃を撃つヤツを皆スナイパーと呼びたがる。」

ジョンソンのようなただの人殺しを「スナイパー」と呼ぶことについて、ある退役陸軍のスナイパーは「軍でスナイパーをやっている連中には本当に迷惑な話だ。」と語る。
なぜなら、戦場で最も危険な任務の一つである「狙撃」を行うスキルを身に着けるには、高度な訓練に耐えられる個人を必要とするからだ。

イラクに何度か従軍し、米陸軍の狙撃学校で教官を務め、現在はタクティカルトレーニングの会社を率いるピート・パターソンは語る。
「ダラスのこの殺人者をスナイパーと呼ぶことは、我々の仕事に暗い影をさすようなものだ。我々は一般人を殺さないし、警官を背中から撃つようなまねはしない。我々軍人は戦場で自分の責務を果たしているだけだ。」
ピーターソンによれば、スナイピングとはある程度の距離が必要であり、ダラスの人殺しジョンソンについてこう指摘する。
「奴は警官を100メーターかそこらで撃っている。彼がシューターとして優れてるとは言えない。彼の武装はふつうではないし、ロングレンジのシューターとして正式な教育を受けてもいない。特定の人間を狙った射撃としてはお粗末すぎるよ。」
ピーターソンは付け加えた。
「しかし、奴はこの地域をよく知ってて、それを自分のアドバンテージとして活用した。」

AP電によると、犯人ジョンソンはダラス郊外のメスキートの高校を卒業後、陸軍に入隊。工兵として教育を受け、メスキート南の420連隊に配属された。その後2013年11月にアフガニスタンに派兵され、2014年の5月にセクハラで除隊。
地元新聞によれば、帰国後はテキサスのセルフ・ディフェンススクールに通い、そこで様々なテクニックを身に着け、銃器や爆発物の練習を自宅の裏庭で行っていたようだ。

軍や法執行機関のスナイパーは、一般的には、安定した生活を送り、定期的に心理検査を受けている。
彼らが特別なのは、ロングレンジの射撃に加えて、偵察と周囲にあるものを使って風景にとけこむステル術と、移動のテクニックである。
彼らはスナイパーとして訓練されている。
スナイパーという仕事は、チーム、もしくは個人で、高度な訓練とスキルが求められる。
ロングレンジ射撃のために彼らは弾道を計算し、地形を読み、そしてひっそりと身を潜めるのである。

ダラス警察のチーフによると、犯人のジョンソンは警察のネゴシエイターに「白人を殺す、特に白人警官だ。」と
語っていたという。

「奴の頭の中のことはわからないよ。」
アメリカ陸軍スナイパーアソシエイションの長であるスタン・クローダーは言う。
クローダーはイラクとアフガニスタンに何度も従軍し、アメリカ陸軍スナイパースクールでも働いている。
クローダーによると、100mたらずの距離での射撃など陸軍の新兵でもできる。しかし、
「訓練を受けた本物の軍のスナイパーが、仮にこの恐ろしい事件を引き起こすとしたら、彼は今までどおり、実戦どおりやるだろう。つまり、誰も見とがめられることなく、誰の記憶にも残らすに、多くの人々を殺す。誰がやったかなんてわかりもしない。そして、何一つ痕跡を残さずに立ち去るだろう。影さえも踏ませないってわけだ。」
クローダーは言う。
「ジョンソンがやったことがスナイピングかって?否だね。軍で初期訓練を受けた後、奴はこんな事件を引き起こした。守ると誓った人々を殺す側に寝返ったんだ。そんな輩をスナイパーと呼ぶような奴の口には蹴りを食らわしてやるよ!」

リチャード・カルーソによれば、ジョンソンは「ただの人殺しだ。」
カールソンは特殊部隊の衛生兵、スナイパーとして、イラクとアフガニスタンに12年間に何度も派遣された経験をもつ。
「テクニカルなレベルからだけで言えば、ジョンソンには本物のスナイパーとしての技量はない。彼の射撃はロングレンジではない。奴は銃と憎しみをもったただの男だ。私には、実際に倒した人間の数よりも多くを殺す機会があった。殺せるはずの人間をなぜ生かしておいたのか?私は任務を遂行しただけで、人殺しではない。そこが大きな違いだ。」
ジョンソンをスナイパーと呼ぶことは、現在任務についている連中にとってダメージになる、とカルーソは語る。
「アメリカ全土に知られた人殺しをスナイパーと呼ぶことは、スナイパーが本当はどんな人間か知らない人たちに悪影響を及ぼす。」
例えば、軍の士官達が、スナイパーを養成する可能性を学んだり、戦闘でどのようにスナイパーを活用するかといった内容のプログラムが削減されたりするのだ。
「ひどい映画や今回のような事件のせい」で、士官たちはスナイパーや関連する言葉を聞くだけで、殺人事件を思い出すのだ。

カルーソは言う。「憎しみを持つ者は銃がなくても殺人を犯せる。ボストンマラソン事件では銃は使われなかった。9.11でも銃は使われなかった。俺は思うんだが、いつかスナイパーってのは超絶技巧的な殺し屋ってことになるんじゃないかね。そして、メディアによれば、そのうちの何人かはただの人殺し野郎ってことになる」
【要約】スナイパーとは何者か?









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Posted by もじゃもじゃ  at 11:28 │Comments(0)◎戦略関連

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