2016年06月17日
「現代の軍事戦略」シーパワー現代編
前回は、現在でもシーパワーについて議論する際の枠組みとなる考え方を提唱した制海論のマハン、海と陸との統合コルベットをご紹介した。
では、マハンとコルベット以降の、現代のシーパワー理論とはどのようなものか?
今回は「現代の軍事戦略」エリノア・スローン著より、シーパワー現代編。
■アメリカの圧倒的なシーパワー
・冷戦後の前提として、ソ連崩壊によって、米海軍は圧倒的なシーパワー国家となり、制海はほぼ達成した。
・懸念事項としては、破たん国家や民族紛争、古くからの民族憎悪の復活、人道面での危機、大量破壊兵器の拡散のような、安全保障についての予測不可能なリスク。
・これによって、西洋諸国の海軍は戦力投射によって地上戦力を支援し、地上における危機管理を助けるような任務を与えられた。
・戦略的な焦点は「海軍は海で何をするべきか」から「海軍は海から何をできるか」というコルベット的方向に移ってきた。
■米海軍、海兵隊の共同戦略文書 「フロム・ザ・シー」と「フォワード・フロム・ザ・シー」
・「フロム・ザ・シー」と「フォワード・フロム・ザ・シー」は米海兵隊と米海軍によるコルベット型の特徴を備えた戦略文書。
1992年の「フロム・ザ・シー」では「公海での戦闘から、海から行われる統合作戦へ変化する」と謳い、1994年の「フォワード・フロム・ザ・シー」では、「海から(陸への)戦力投射」を再確認。
・両文書の前提は、「海で何が起こっても、結局のところ人間は地上に住んでおり、戦略的インパクトを与えるためには、海軍は少なくとも地上の人間の活動に一定の影響を及ぼさなければならない」
・両文書の主要なコンセプト
「海軍遠征部隊」米本土から離れた遠距離に位置する土地への危機に対応して、迅速に到着できなければならない。その為には、空母打撃群や水陸両用即応群が前線に近い地域に存在している「前方プレゼンス」が必要。危機への対処は陸軍との「統合作戦」的な形をとる。
・「シーベイシング」シーパワーの影響力を地上で発揮するための組織づくりや、それを利用するためのアプローチやコンセプト。冷戦後はアメリカの基地へのアクセスが制限されるかもしれないという懸念から出てきたコンセプト。当初は海軍のコンセプトであったが、9.11以降ペンタゴンも全軍的な重要なコンセプトと認識。
■ネットワーク中心の戦い アーサー・セブロウスキー提督と沿岸域戦
・ネットワーク中心の戦い(NCW)の父と呼ばれる。米海軍提督、米海軍大学校学長。
・対艦巡行ミサイルの精度向上や潜水艦による、沿岸域の大型艦船や空母等の大型プラットフォームのリスク増大。
対応として、多数で構成されるストリートファイターと呼ばれる小型艦船をネットワークにより緊密に統合。
分散されて変化し続け、順応性が高く、瞬間的に情報が共有される効率的な軍事力。
テロ対策、海賊対策、麻薬密輸取締、人道支援・災害援助のサポートまで幅広く対応可能。また沿岸域での戦闘にも適している。
・海軍上層部はNCWのコンセプトを認め、空母と艦船、潜水艦などを密接にネットワーク化した艦隊へと再編。
・ストリートファイターコンセプトは沿岸戦闘艦LCSとしてという形で生き残っている。
■マイケル・マレン提督とグローバル海洋パートナーシップ
・海の安全確保はすべての国家の国益につながるものであり、自由市場のもたらす恩恵はすべての人々に分け与えられるものである。
米国一国では海賊のような非対称的な脅威、3.11の自然災害に対する人道的援助等に対して、すべての海域で対応することは不可能。
そこで、グローバルな領域で、海というシステムを守るための各国シーパワーとのパートナーシップが不可欠。
また、米軍はモジュール化され目的によって装備を変えられる艦船、無人機やヘリ、医療チームといった即座に必要となる部隊の
組み合わせ=グローバル・フリートステーションを創設することで、露骨に攻撃的で費用のかかる空母打撃群を展開する必要が
なくなる。
■まとめ
・冷戦後のシーパワーの理論は、沿岸域と地上に対するシーパワーの影響を考察するものがほとんどであった。ソ連の崩壊により、アメリカによる制海が実現した環境下では、マハンのテーマであった艦隊同士の戦術は意味をなさなかった。
・しかし、公海上の海賊や中国の外洋艦隊のような脅威や競争者が再び台頭し始めており、昔の理論にもまだ耳を傾けるべきところは残っている。

では、マハンとコルベット以降の、現代のシーパワー理論とはどのようなものか?
今回は「現代の軍事戦略」エリノア・スローン著より、シーパワー現代編。
■アメリカの圧倒的なシーパワー
・冷戦後の前提として、ソ連崩壊によって、米海軍は圧倒的なシーパワー国家となり、制海はほぼ達成した。
・懸念事項としては、破たん国家や民族紛争、古くからの民族憎悪の復活、人道面での危機、大量破壊兵器の拡散のような、安全保障についての予測不可能なリスク。
・これによって、西洋諸国の海軍は戦力投射によって地上戦力を支援し、地上における危機管理を助けるような任務を与えられた。
・戦略的な焦点は「海軍は海で何をするべきか」から「海軍は海から何をできるか」というコルベット的方向に移ってきた。
■米海軍、海兵隊の共同戦略文書 「フロム・ザ・シー」と「フォワード・フロム・ザ・シー」
・「フロム・ザ・シー」と「フォワード・フロム・ザ・シー」は米海兵隊と米海軍によるコルベット型の特徴を備えた戦略文書。
1992年の「フロム・ザ・シー」では「公海での戦闘から、海から行われる統合作戦へ変化する」と謳い、1994年の「フォワード・フロム・ザ・シー」では、「海から(陸への)戦力投射」を再確認。
・両文書の前提は、「海で何が起こっても、結局のところ人間は地上に住んでおり、戦略的インパクトを与えるためには、海軍は少なくとも地上の人間の活動に一定の影響を及ぼさなければならない」
・両文書の主要なコンセプト
「海軍遠征部隊」米本土から離れた遠距離に位置する土地への危機に対応して、迅速に到着できなければならない。その為には、空母打撃群や水陸両用即応群が前線に近い地域に存在している「前方プレゼンス」が必要。危機への対処は陸軍との「統合作戦」的な形をとる。
・「シーベイシング」シーパワーの影響力を地上で発揮するための組織づくりや、それを利用するためのアプローチやコンセプト。冷戦後はアメリカの基地へのアクセスが制限されるかもしれないという懸念から出てきたコンセプト。当初は海軍のコンセプトであったが、9.11以降ペンタゴンも全軍的な重要なコンセプトと認識。
■ネットワーク中心の戦い アーサー・セブロウスキー提督と沿岸域戦
・ネットワーク中心の戦い(NCW)の父と呼ばれる。米海軍提督、米海軍大学校学長。
・対艦巡行ミサイルの精度向上や潜水艦による、沿岸域の大型艦船や空母等の大型プラットフォームのリスク増大。
対応として、多数で構成されるストリートファイターと呼ばれる小型艦船をネットワークにより緊密に統合。
分散されて変化し続け、順応性が高く、瞬間的に情報が共有される効率的な軍事力。
テロ対策、海賊対策、麻薬密輸取締、人道支援・災害援助のサポートまで幅広く対応可能。また沿岸域での戦闘にも適している。
・海軍上層部はNCWのコンセプトを認め、空母と艦船、潜水艦などを密接にネットワーク化した艦隊へと再編。
・ストリートファイターコンセプトは沿岸戦闘艦LCSとしてという形で生き残っている。
■マイケル・マレン提督とグローバル海洋パートナーシップ
・海の安全確保はすべての国家の国益につながるものであり、自由市場のもたらす恩恵はすべての人々に分け与えられるものである。
米国一国では海賊のような非対称的な脅威、3.11の自然災害に対する人道的援助等に対して、すべての海域で対応することは不可能。
そこで、グローバルな領域で、海というシステムを守るための各国シーパワーとのパートナーシップが不可欠。
また、米軍はモジュール化され目的によって装備を変えられる艦船、無人機やヘリ、医療チームといった即座に必要となる部隊の
組み合わせ=グローバル・フリートステーションを創設することで、露骨に攻撃的で費用のかかる空母打撃群を展開する必要が
なくなる。
■まとめ
・冷戦後のシーパワーの理論は、沿岸域と地上に対するシーパワーの影響を考察するものがほとんどであった。ソ連の崩壊により、アメリカによる制海が実現した環境下では、マハンのテーマであった艦隊同士の戦術は意味をなさなかった。
・しかし、公海上の海賊や中国の外洋艦隊のような脅威や競争者が再び台頭し始めており、昔の理論にもまだ耳を傾けるべきところは残っている。

2016年06月09日
現代の軍事戦略 シーパワー古典編
もじゃもじゃです!
世界中の戦略家から絶賛される「現代の軍事戦略入門」(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)
本書は軍事戦略を、古典から現代の理論までをコンパクトにまとめており、軍事戦略の変遷を一般の読者でも理解できる軍事戦略の入門書です。
特色として、専門家でないとなかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれており、一方基礎となった古典的理論も、簡潔に押さえられています。
この良書をベースに軍事戦略への理解を深め、戦争や複雑な国際情勢をマスコミ等に踊らされることなく、我々自身で考えられるようにしたいと思ってます。
また、本ブログをきっかけに一人でも、本書を含めた戦略理論書を手に取って頂き、理解を一緒に深めてくれるとなお嬉しく思います。
さて、各種の軍事理論がある中で、戦略研究を学ぶものにとって最初の、そして最も重要なステップと言われるシーパワーの理論を、初回はご紹介します。
■本書のまとめによると、シーパワーとは
①シーパワーの目的とは沿岸域と海洋で「制海」を可能にすることにある。
②シーパワーは精密誘導攻撃や兵站支援を通じて、ランドパワー(陸の兵力)と共に機能させるものである。
このシーパワーの基礎的な考え方を提唱したのが、マハンとコルベット。
①海を制する者が世界を制す アルフレッド・セイヤー・マハン(1814-1914)
・アメリカ海軍軍人。「坂の上の雲」でも有名な秋山真之が留学時代に師事していた。
・マハンの考えるシーパワーの前提は、海は貿易ルートの広大なハイウェイというもの。その上で艦隊などの軍事力と、貿易ルートによる生産、海運、植民地と市場などの経済・政治力をシーパワーとした。
・独自の歴史研究により、「海を制する者が世界を制す」とし、シーパワーの目的は「制海」(シーコントロール)にあると主張。
・「制海」は自国の利用と利益のために、貿易が行われる世界の公共財としての海を常にオープンな状態に
維持し、戦時においては敵国に使わせないことを意味する。
・制海のため、艦隊の使命は敵艦隊と交戦し、勝利することにあると主張。
・シーパワーというキーワードの発案者。
・マハンは、地上部隊を支援するための海軍力の使用を重視していなかった。
②海は陸のため ジュリアン・コルベット(1854-1922)
・イギリスの学者。民間人の海軍史家。英海軍大学講師。英海軍の改革にも貢献。
・現代でいう「統合戦」=海軍力と地上戦力との統合を提唱。
・戦争は海軍の作戦行動のみにで勝利することはほぼ不可能。なぜならば人は陸に定住しているから。海軍力だけでは陸上の敵戦力を破壊できない為、必然的に戦争は最後は陸上で決着をつけなければならない。 したがって海軍と陸軍との協力によって勝利は可能となる。
次回シーパワー現代編で、冷戦以降のシーパワー理論が、マハン的「制海論」とコルベット的「統合戦理論」のどちらに動いていくのを見ていきます。
日本語で読めるマハンの著作
・「海上権力史論 新装版」原書房刊
・「海軍戦略」中央公論新社刊 (絶版・古本あり)
・「マハン海上権力論集」講談社学術文庫刊
日本語で読めるコルベットの著作
・「戦略論体系 8 コーベット」芙蓉書房出版刊
※コルベットはコーベットとも呼ばれる。本書は訳についてのクレーム多し。
コンパクトに読めるマハンとコルベット
・「戦略論の名著」中公新書刊 野中郁次郎編著
※マハンのみ
・「名著で学ぶ戦争論」日経ビジネス文庫刊 石津朋之編著

世界中の戦略家から絶賛される「現代の軍事戦略入門」(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)
本書は軍事戦略を、古典から現代の理論までをコンパクトにまとめており、軍事戦略の変遷を一般の読者でも理解できる軍事戦略の入門書です。
特色として、専門家でないとなかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれており、一方基礎となった古典的理論も、簡潔に押さえられています。
この良書をベースに軍事戦略への理解を深め、戦争や複雑な国際情勢をマスコミ等に踊らされることなく、我々自身で考えられるようにしたいと思ってます。
また、本ブログをきっかけに一人でも、本書を含めた戦略理論書を手に取って頂き、理解を一緒に深めてくれるとなお嬉しく思います。
さて、各種の軍事理論がある中で、戦略研究を学ぶものにとって最初の、そして最も重要なステップと言われるシーパワーの理論を、初回はご紹介します。
■本書のまとめによると、シーパワーとは
①シーパワーの目的とは沿岸域と海洋で「制海」を可能にすることにある。
②シーパワーは精密誘導攻撃や兵站支援を通じて、ランドパワー(陸の兵力)と共に機能させるものである。
このシーパワーの基礎的な考え方を提唱したのが、マハンとコルベット。
①海を制する者が世界を制す アルフレッド・セイヤー・マハン(1814-1914)
・アメリカ海軍軍人。「坂の上の雲」でも有名な秋山真之が留学時代に師事していた。
・マハンの考えるシーパワーの前提は、海は貿易ルートの広大なハイウェイというもの。その上で艦隊などの軍事力と、貿易ルートによる生産、海運、植民地と市場などの経済・政治力をシーパワーとした。
・独自の歴史研究により、「海を制する者が世界を制す」とし、シーパワーの目的は「制海」(シーコントロール)にあると主張。
・「制海」は自国の利用と利益のために、貿易が行われる世界の公共財としての海を常にオープンな状態に
維持し、戦時においては敵国に使わせないことを意味する。
・制海のため、艦隊の使命は敵艦隊と交戦し、勝利することにあると主張。
・シーパワーというキーワードの発案者。
・マハンは、地上部隊を支援するための海軍力の使用を重視していなかった。
②海は陸のため ジュリアン・コルベット(1854-1922)
・イギリスの学者。民間人の海軍史家。英海軍大学講師。英海軍の改革にも貢献。
・現代でいう「統合戦」=海軍力と地上戦力との統合を提唱。
・戦争は海軍の作戦行動のみにで勝利することはほぼ不可能。なぜならば人は陸に定住しているから。海軍力だけでは陸上の敵戦力を破壊できない為、必然的に戦争は最後は陸上で決着をつけなければならない。 したがって海軍と陸軍との協力によって勝利は可能となる。
次回シーパワー現代編で、冷戦以降のシーパワー理論が、マハン的「制海論」とコルベット的「統合戦理論」のどちらに動いていくのを見ていきます。
日本語で読めるマハンの著作
・「海上権力史論 新装版」原書房刊
・「海軍戦略」中央公論新社刊 (絶版・古本あり)
・「マハン海上権力論集」講談社学術文庫刊
日本語で読めるコルベットの著作
・「戦略論体系 8 コーベット」芙蓉書房出版刊
※コルベットはコーベットとも呼ばれる。本書は訳についてのクレーム多し。
コンパクトに読めるマハンとコルベット
・「戦略論の名著」中公新書刊 野中郁次郎編著
※マハンのみ
・「名著で学ぶ戦争論」日経ビジネス文庫刊 石津朋之編著

実は読みはメイハン・・・らしい