2016年07月09日

追悼 トフラー氏 「戦争と平和」

もじゃもじゃです。

「第三の波」で有名な未来学者アルビン・トフラー氏がお亡くなりになりました。
偶然、氏の「戦争と平和」を読んでいる最中だった事と、毎週本ブログでご紹介している「現代の軍事戦略」でも度々言及されていることもあり、今週は「戦争と平和」をご紹介します。

本書はトフラー氏が「第三の波」で予言した情報化社会が、戦争と平和の様相にどのような影響を与えるのかについて書かれたもの。
冒頭に本書を書くいきさつが語られている。
米陸軍のある部門が新しい時代の軍隊をつくる為に「第三の波」を研究しており、トフラー氏に直接話を聞くためにコンタクトしてきた事が、本書が生まれるきっかけだったという。
驚いたのは、軍の将校クラスの8割は大学の修士・博士を取得しているということ。ちなみに、民間の企業の幹部クラスだとその比率は2割に満たないそうだ。

トフラー氏の第三の波とは、いわゆる情報革命のことである。
第一の波が農業革命、第二の波が産業革命。1950年代からトフラー氏は第三の波が社会に到来することを予言していたという。
戦争の戦い方は、社会の各段階の富の創出方法によって異なるという。
第一の波の社会=農業社会では、鍬や鍬、弓矢、槍、剣で戦った。
第二の波の社会=工業化社会では、大量生産の兵器(銃や飛行機、戦車等)で戦った。
そして、第三の波の社会=情報化社会(脱近代 ポストモダン社会)では、スマートな(頭のいい)兵器での戦いになるという。
例えば、衛星からの位置情報によって標的を捕捉し精確に破壊するミサイルなどが、スマートな兵器。
また、スマートな兵器はスマートな兵士でなければ扱えず、今後兵士の知的レベルも大いに求められるという。

第三の波の脱近代(ポストモダン)の軍隊は、脱大量生産・大量消費的でもあるという。
ベトナムや第二次大戦のように、大量の爆弾での絨毯爆撃が工業化社会の象徴的な戦い方であり、今後はむやみに大量破壊を行う方向から、標的を精確に破壊する方向に変わる。
その結果、必要な弾薬の量が減り、機体・車体が軽くなり、スピード・航続距離が向上する。
大量破壊兵器の最たるものが「核兵器」であるが、本書では核兵器の未来については具体的には語られていない。

「現代の軍事戦略」との関連では、画期的な「エア・ランドバトル」の成り立ちについて書かれている。
前述の第三の波研究グループのボスが、「エア・ランドバトル」の生みの親ドン・スターリー。
エア・ランドバトルはソ連崩壊以前、数で圧倒的に勝るソ連軍がヨーロッパ(ドイツ)に侵攻して来た際、核兵器を使わずに、数で劣るNATO軍が対抗する為の戦略である。
数で勝るソ連軍に従来のように戦線で対抗しても突破される。そこで、侵攻してきたソ連軍の奥深くにエアパワーで後続に打撃を与え、補給や通信などを遮断して、先に侵攻してきた部隊を孤立させ、ランドパワーで叩くのがエアランド・バトルの概略である。縦深戦略ともいわれる。
第四次中東戦争がアイディアの源泉であり、ソ連崩壊の1か月前に正式に採用された。

本書の内容は、25年前に書かれたものであるが、今我々がニュース等で知る現実を言い当てている。
逆を言えば、何を今さら感がないとも言えないが、軍事専門家とは違うコンセプチュアルな視点が面白い。
例えば、通常の部隊を大量生産と、特殊部隊を個別少量生産と結び付けたり、紛争・戦争の原因を第一の波の国(農業国)と第二の波の国(工業国)と第三の波の国(情報化社会)の格差に求めたり等。
本書は残念ながら現在は絶版だが、ヤフオクでも見かけるので、気になる方は探してみてはいかがでしょう?

最後に本書で印象的だった言葉を記す。
「しばしば非難されることだが、高級将校たちは前回と同じ戦争を、今一度戦おうと考え、その準備に時間を費やしている。(中略)
平和のために言論活動をしていると思っている知識人、政治家、反戦運動家たちにも時代遅れの高級将校に対するのと同じ批判が向けられて然るべきだということだった」


追悼 トフラー氏 「戦争と平和」

歩兵の現実的なスマート兵器はこのレベルでしょうか?









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Posted by もじゃもじゃ  at 08:57 │Comments(0)◎戦略関連

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