2016年10月22日

「現代の軍事戦略」新しい戦争

もじゃもじゃです!

「現代の軍事戦略入門」
(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)
本書は、軍事戦略理論を古典から現代までコンパクトにまとめられてお り、軍事戦略の変遷を一般の読者でも理解できる入門書です。
なかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれている一方、基礎となった古典的理論にも、目配りされております。

「新しい戦争」とは、ユーゴスラビア内戦やその他の地域で行われた内戦や紛争の解決に対して、国際社会が直面した困難を受けて使われるようになった用語。ゲリラ戦略の締めくくりとして、「新しい戦争」論者と対反乱戦の理論についてご紹介します。

■「新戦争論」メアリー・カルドー
・著書「新戦争論」1999年刊
・1990年代のアフリカや東欧で登場した組織的な暴力の、戦い方や目的や手段が「新しい形の戦争である」と論じた。
クレフェルトと同じように、「新しい戦争」が「国家の統治能力の消耗、国家の崩壊」という文脈から生じている。
・冷戦の地政学的、イデオロギー的な目的の代わりに、新しい戦争では「アイデンティティー・ポリティックス」つまり、特定の民族、部族、もしくは言語的なアイデンティティを基盤にした権力闘争が行われるようになった。
・「新しい戦争」は、別のアイデンティティーを持った人間を全て排除することによって政治的コントロールを獲得しようとするものであり、これは住民の追放や強制移住、そして大量虐殺などの手段を通じて行われる。この現象は「民族浄化」という言葉によって広く知られるようになった。

■ルパート・スミス
・NATO軍のアライドフォース作戦時の副最高司令官。
・著書「ルパート・スミス 軍事力の効用:新時代 戦争論」2005年刊
・工業化した国家同士が戦う「対称的な戦争」から、「軍同士が交戦するような戦場が存在しなかったり、すべての交戦者の中に必ずしも軍隊が含まれるわけではないという事実が反映された、人間戦争」へとシフトしたと論じた。
・「街や家や畑にいる市民たちがすべて あらゆるところにいるすべての人間が 戦場であるという現実」
・(紛争に介入する)NATOのような戦う組織の目的が、「政治的な成果を決定できる具体的な目標の奪取から、成果を決定する条件を作り出すことへと変化している」
・このような条件をどのように作るべきかは、当時から現在までも答えは出ていない。

■デビッド・キルカレン
・オーストラリア軍の中佐。ペンタゴンでも対反乱のアドバイスを行う。
・冷戦後の反乱の特徴は、革命的な目標やその質にあると指摘。
・反乱の古典的理論では、一国の中の非国家主体と政府の間で発生し、その最終目的は国家の支配を勝ち取るとろこにあると想定して扱われてきたが、現在の反乱の多くは、ただ単に国家を破壊しようとするだけであり、統治権を奪取するところまでは狙われていない。
・「偶発的なゲリラ」よそからやって来た過激主義者と現地住民が親密になって、ついには地元住民が武器をとって過激主義者と一緒に戦う「偶発的な」ゲリラになってしまう、感染症のような4つのプロセスを提示。

■FM3-24 ペトレイアス
・元米陸軍大将。
・アメリカの対反乱ドクトリン「米陸軍・海兵隊対反乱野外教令」(通称FM3-24)を2006年に発行。
・FM3-24は古典的な対反乱アプローチが支配的。特に注目を集めたのはパラドックスの部分。発行当時は非効率的な殺傷的アプローチが支配的だった為。

パラドックスとは、例えば・・・

「部隊を防護しようとすると、ますます安全ではなくなることがある」軍の部隊の安全を確保しようとして部隊を宿営地の中に留め、住民の中に入っていかせないと、作戦の成功に必要な情報に触れるチャンスが減少してしまう。

「軍事力を使えば使うほど効果が薄れていくことがある」軍事力を行使すればするほど付随的被害や間違いが発生しやすくなり、反乱勢力のプロパガンダに使われる材料が増えることになる。

「対反乱作戦が成功するほど、使用できる武力が少なくなり、容認すべきリスクも増加することになる」対反乱作戦が進展するにつれて、警察的な任務の方が増え、兵員はより厳しい交戦規定に従わなくてはならず、より大きなリスクが対反乱に伴うことになる。

・また、「現地住民の安全確保」は対反乱の中心的な教訓とされた。

「現代の軍事戦略」新しい戦争

「現代の軍事戦略」のご紹介は今回で一旦終了します。「サイバー戦略」「核戦略」「スペースパワー」については、時機を見て掲載の予定。
本ブログをきっかけに一人でも、本書を含めた戦略書類を手に取って頂き、平和や戦争への理解を一緒に深めてくれると嬉しく思います。






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Posted by もじゃもじゃ  at 10:00 │Comments(0)◎戦略関連現代の軍事戦略

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