2016年08月25日

「現代の軍事戦略入門」エアパワー現代編 その2

もじゃもじゃです!

「現代の軍事戦略入門」
(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)
本書は、軍事戦略理論を古典から現代までコンパクトにまとめており、軍事戦略の変遷を一般の読者でも理解できる入門書です。
なかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれている一方、基礎となった古典的理論にも、目配りされております。

本書より、前回のエアパワー1990年代に続き、2000年代のエアパワー理論を要約してご紹介します。

■概 略
・2000年代のエアパワー理論は主に、90年代のエアパワー理論の枠組み(戦略的効果、斬首、懲罰etc)をさらに議論を深化させたものと、新しいものとしてはアフガニスタン式の現地部隊+西側特殊部隊+エアパワーの統合的使用に関する議論がある。


■エアパワーの戦略的効果?
・セルビアに対してNATO軍が行なった78日間の爆撃「アライドフォース作戦」。この作戦では、エアパワーによる爆撃のみで、地上軍を派遣することなく勝利を得た史上初の作戦となった。一部の専門家は、ドゥーエが唱えた「エアパワー単独による勝利」に近づいたと考えた。
・しかし、その後の研究によると、エアパワーは確かにその時に使用された唯一の軍事力であったが、同時にNATOによる地上戦力投入の脅し、セルビアエリート層への経済・外交面での圧力、セルビアの国際政治的な孤立等が指摘されており、「エアパワー単独による勝利」をアライドフォース作戦が証明したことにはならない、と現在では認識されている。

■懲罰の有用性
・懲罰とは敵国の敵国の商業・工業的施設に対する爆撃。爆撃により物質的・精神的に打撃を与え、敵国の一般市民=非戦闘員を「懲罰するというもの。その結果、爆撃された市民の怒りが自国政府に対して起こり、政権が存続できずに、戦争が終結するというのがドゥーエの考え方。
・しかし、この考え方は、第二次大戦時のドイツによるロンドン空襲により、間違っていることが証明された。ロンドン市民の怒りはドイツに向けられたからである。
・冷戦後のアライドフォース作戦では、しかし、この懲罰が効いたように見え、専門家の中には、効果があると結論づけた者もいる。
・一方、湾岸戦争では、五週間にわたる爆撃でもイラクの精鋭部隊はまだ戦う意思をもっていた。空爆によって彼らの士気を叩くことはできなかったのである。
・このように懲罰の有用性については、まだ議論が続いている。


■継続的監視
・航空阻止とはエアパワーによる敵インフラの破壊や、地上・洋上の敵戦略の破壊を目的としたもの。
・航空阻止については、戦略的な効果があると認められている。
・しかし、ペンタゴンのデータを元にした分析によると、動かずに防御を重視する敵部隊を発見することは、砂漠という開けた環境の中でも難しく、ましてやセルビアのような山岳地帯ではさらに難しく、そのうえ囮と区別することは腹立たしいほどに困難だったという。
・その後、無人機の発展、多くの情報の一元化等により、かつてないほど明確な情勢認識を生み出せるようになった。
これらの進化は「継続的監視」という新しい概念の登場につながっている。
・アフガニスタン戦争では「継続的監視」がIED(道路上の即席爆発装置)への警戒から、さらに重視されるようになった。さらに継続的監視は、精密攻撃と合わさり「無人機による戦闘」という新しいエアパワーの概念につながり、CIAによっても用いられるようになった。

■斬 首
・斬首とは敵の重心(軍の司令部や政治的意思決定機関等)を精密攻撃によって、ピンポイントで破壊することを狙ったもの。
・専門家からは効果がないという警告があったにも関わらず、(一撃で敵を叩ける)その魅力から、サダム・フセインを狙った「衝撃と畏怖」作戦、タリバンのリーダーを狙った「不朽の自由」作戦が実施された。いずれも失敗。
・斬首攻撃は、正確かつタイミングの良い軍事的な諜報に多くを依存しており、また空爆が成功したとしても次の指導者がこちらが望む方向に政策転換するか予測することができないため、成功につながるとは言い切れない。

■新たな挑戦
・2000年代初期のアフガニスタン戦争、イラク戦争において、エアパワーと地上部隊との統合作戦は質的に新しい時代に入った。エアパワーのテクノロジーの進化により、エアパワーとランドパワーが同時に使われた場合は効果がさらに上がるようになった。
・新しい枠組みとして、現地の部隊(米軍ではない)とアメリカの特殊部隊、そして精密誘導兵器で武装したエアパワーとの組み合わせで、アフガニスタン式といわれる。アフガニスタンでは、米軍の特殊部隊と北部同盟+エアパワー、イラクでは、米軍特殊部隊とクルド人部隊+エアパワー、リビアではNATOが同じような方法をとった。
・専門家の間では、効果があるとするものと、主に現地部隊の能力(の欠如)による危険性を指摘するものとで意見が分かれている。

「現代の軍事戦略入門」エアパワー現代編 その2




以上でエアパワー編は終了です。
次回すこし時間をあけてから「ゲリラ戦の理論」をお届けする予定です。






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Posted by もじゃもじゃ  at 11:28 │Comments(0)◎戦略関連現代の軍事戦略

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