スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上記事の更新がないブログに表示されます。
新しい記事を書くことで、こちらの広告の表示を消すことができます。  

Posted by ミリタリーブログ  at 

2016年08月13日

「現代の軍事戦略入門」エアパワー現代編

もじゃもじゃです!

「現代の軍事戦略入門」
(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)
本書は、軍事戦略理論を古典から現代までコンパクトにまとめており、軍事戦略の変遷を一般の読者でも理解できる入門書です。
なかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれている一方、基礎となった古典的理論にも、目配りされております。

少し間が空きましたが、今回は古典編に引き続き、エアパワー現代編として、1990年代のエアパワー理論をご紹介します。

■概 観
・1990年代はドゥーエの「戦争をほぼ、もしくは完全に単独のエアパワーによって勝利することができる」という理論が具現化したかのような湾岸戦争によって始まり、NATO軍がコソボ周辺で行った爆撃のみによって史上初めて軍事的・政治的勝利を収めるという紛争によって終わった。果たして、エアパワーのみで戦争に勝利することはできるのか?


■パラレルアタック ジョン・ワーデン
・米空軍退役大佐。湾岸戦争の爆撃計画を作成。
・敵を「特定の重心を持って機能しているシステムであり、敵の重心をうまく叩くことができれば相手を降伏させることができる」と論じた。
・「五環モデル」彼は、これを五つの戦略の環を持つ同心円として表している。同心円の中心にあるものが最も重要なもの国家の指揮系統の環であり、2番目に戦争遂行のインフラとなるエネルギー関連(石油やガス等)、3番目に同じくインフラの橋や道路、鉄道、4番目に食料として国民や農業、最後が陸上に配備されている軍事力。
・ワーデンは5つの各円にある標的に対して同時的に攻撃を行うことによって、その効果は急激に増大し、敵を降伏させることができると論じた。後にこの攻撃を「並列攻撃(パラレル・アタック)」と名付けた。


■懲罰、拒否、そして斬首 ロバート・ペイプ
・著書「勝つための爆撃:戦いにおけるエアパワーと強制」の中で、航空作戦を「戦略爆撃」と「航空阻止」の2つに分類。
・さらに「戦略爆撃」を「懲罰」「拒否」「斬首」の3つに分類。
 「戦略爆撃」とは、敵の政治や経済の中心地近くの固定化された、軍事、産業、民間施設を狙ったもの。
 「懲罰」とは、敵国の市民に懲罰を与えるものであり、これによって爆撃を行う側の要求を飲むようになるまで、抵抗を続ける側が支払う社会的コストを引き上げることを狙ったもの。例えば、第二次大戦時のロンドン、東京への爆撃等一般市民を狙った爆撃。
「拒否」とは、抵抗をする側が政治的・領土的な目標を達成する際に必要となる軍事的能力を発揮させないことを狙うもの。例えば、兵器工場や、戦争遂行に必要な希少な天然資源を狙うこと。兵器のピンポイントの正確さが必要となる。
 「斬首」とは、敵国の政治の中心にある通信ネットワークや、司令部といった施設、石油精製プラントのような国家経済のインフラの結節点、を叩くことによって、その国家は崩れ去るという理論。
・ぺイプは「懲罰」や「斬首」には効果がなく、無意味であると主張。エアパワーは「戦場で敵軍を倒すために、友軍の陸軍と戦域の空軍が支払わねばならないコストを減少させることぐらい」であると述べている。


■元ソ連空軍の研究家 ベンジャミン・ランべス
・ランド研究所において長年エアパワーの研究を続けるスペシャリスト。
・エアパワーの潜在的な戦闘力がテクノロジーの発展によって、他の軍種のものと比べて劇的に上がった。
・湾岸戦争でエアパワーが証明したのは「戦力投射」「スタンドオフ精密攻撃」「状況認識の拡大」である。
・「戦力投射」(軍隊を米本土から戦地に移動し、維持すること)以前は艦船によって行っていたものを、新型の戦略貨物輸送機によって、空軍が行えるようになった。艦船に比べて時間が数日・数時間単位まで短縮が可能。
・「スタンドオフ精密攻撃」衛星による誘導で精密度を劇的に上げた兵器によって可能となった。
・「状況認識の拡大」衛星や無人機、特殊な有人機によって可能となった。状況認識の高まりにより、作戦上の状況についての知識がほぼ完全な状況で取得可能になっただけでなく、敵軍に対して同じ情報を取得させないことによって「情報優勢」が可能となった。


次回エアパワー現代編 2000年代の理論に続きます。
  

Posted by もじゃもじゃ  at 10:00Comments(0)◎戦略関連

2016年07月28日

【要約】スナイパーとは何者か?

イラクとアフガニスタンに従軍したスナイパーのノンフィクションである「ザ・スナイパー」
著者であるジーナ・キャヴァローラが、7月7日に起きた米ダラスでの警官射殺事件について、National Interest誌に寄稿した記事を要約。
「スナイパー」という言葉を安易に使うメディアや警察への、本物のスナイパー側からの、反論をまとめています。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


7月7日アメリカのテキサス州ダラスで、恨みを持った怒れる男ミカ・ジョンソンが、パーキングビル3階の開けた場所に陣取り、デモ行進の警護をしていた警察官10人以上をライフルで銃撃し、5人が死亡、7人が負傷した。
警察とメディアは犯人のジョンソンを「スナイパー」と呼んだ。
しかし、実戦経験のあるスナイパー達は言う。
「とんでもない!あんな奴がスナイパーであるもんか!」


事件からほどなく、軍のスナイパーコミュニティから、元陸軍の殺人犯ミカ・ジョンソンを警察とメディアが「スナイパー」と呼ぶことは、軍の本物のスナイパー達にとって有害であるとコメントした。
メディアはジョンソンの短い従軍経験に飛びつき、彼を訓練された殺人者に祭り上げた。

「ジョンソンがやったことは、なんのスキルもいらない、従軍経験のある人間なら誰でもできることだ。」と、マーク・ヤードレイは語る。
ヤードレイは、元特殊部隊のスナイパーであり、衛生兵だ。彼は9.11後の初期の特殊作戦に数年間関わった。
「プレスの連中は、スナイパーがどんな訓練を経て「スナイパー」になったのかを知りもせず、銃を撃つヤツを皆スナイパーと呼びたがる。」

ジョンソンのようなただの人殺しを「スナイパー」と呼ぶことについて、ある退役陸軍のスナイパーは「軍でスナイパーをやっている連中には本当に迷惑な話だ。」と語る。
なぜなら、戦場で最も危険な任務の一つである「狙撃」を行うスキルを身に着けるには、高度な訓練に耐えられる個人を必要とするからだ。

イラクに何度か従軍し、米陸軍の狙撃学校で教官を務め、現在はタクティカルトレーニングの会社を率いるピート・パターソンは語る。
「ダラスのこの殺人者をスナイパーと呼ぶことは、我々の仕事に暗い影をさすようなものだ。我々は一般人を殺さないし、警官を背中から撃つようなまねはしない。我々軍人は戦場で自分の責務を果たしているだけだ。」
ピーターソンによれば、スナイピングとはある程度の距離が必要であり、ダラスの人殺しジョンソンについてこう指摘する。
「奴は警官を100メーターかそこらで撃っている。彼がシューターとして優れてるとは言えない。彼の武装はふつうではないし、ロングレンジのシューターとして正式な教育を受けてもいない。特定の人間を狙った射撃としてはお粗末すぎるよ。」
ピーターソンは付け加えた。
「しかし、奴はこの地域をよく知ってて、それを自分のアドバンテージとして活用した。」

AP電によると、犯人ジョンソンはダラス郊外のメスキートの高校を卒業後、陸軍に入隊。工兵として教育を受け、メスキート南の420連隊に配属された。その後2013年11月にアフガニスタンに派兵され、2014年の5月にセクハラで除隊。
地元新聞によれば、帰国後はテキサスのセルフ・ディフェンススクールに通い、そこで様々なテクニックを身に着け、銃器や爆発物の練習を自宅の裏庭で行っていたようだ。

軍や法執行機関のスナイパーは、一般的には、安定した生活を送り、定期的に心理検査を受けている。
彼らが特別なのは、ロングレンジの射撃に加えて、偵察と周囲にあるものを使って風景にとけこむステル術と、移動のテクニックである。
彼らはスナイパーとして訓練されている。
スナイパーという仕事は、チーム、もしくは個人で、高度な訓練とスキルが求められる。
ロングレンジ射撃のために彼らは弾道を計算し、地形を読み、そしてひっそりと身を潜めるのである。

ダラス警察のチーフによると、犯人のジョンソンは警察のネゴシエイターに「白人を殺す、特に白人警官だ。」と
語っていたという。

「奴の頭の中のことはわからないよ。」
アメリカ陸軍スナイパーアソシエイションの長であるスタン・クローダーは言う。
クローダーはイラクとアフガニスタンに何度も従軍し、アメリカ陸軍スナイパースクールでも働いている。
クローダーによると、100mたらずの距離での射撃など陸軍の新兵でもできる。しかし、
「訓練を受けた本物の軍のスナイパーが、仮にこの恐ろしい事件を引き起こすとしたら、彼は今までどおり、実戦どおりやるだろう。つまり、誰も見とがめられることなく、誰の記憶にも残らすに、多くの人々を殺す。誰がやったかなんてわかりもしない。そして、何一つ痕跡を残さずに立ち去るだろう。影さえも踏ませないってわけだ。」
クローダーは言う。
「ジョンソンがやったことがスナイピングかって?否だね。軍で初期訓練を受けた後、奴はこんな事件を引き起こした。守ると誓った人々を殺す側に寝返ったんだ。そんな輩をスナイパーと呼ぶような奴の口には蹴りを食らわしてやるよ!」

リチャード・カルーソによれば、ジョンソンは「ただの人殺しだ。」
カールソンは特殊部隊の衛生兵、スナイパーとして、イラクとアフガニスタンに12年間に何度も派遣された経験をもつ。
「テクニカルなレベルからだけで言えば、ジョンソンには本物のスナイパーとしての技量はない。彼の射撃はロングレンジではない。奴は銃と憎しみをもったただの男だ。私には、実際に倒した人間の数よりも多くを殺す機会があった。殺せるはずの人間をなぜ生かしておいたのか?私は任務を遂行しただけで、人殺しではない。そこが大きな違いだ。」
ジョンソンをスナイパーと呼ぶことは、現在任務についている連中にとってダメージになる、とカルーソは語る。
「アメリカ全土に知られた人殺しをスナイパーと呼ぶことは、スナイパーが本当はどんな人間か知らない人たちに悪影響を及ぼす。」
例えば、軍の士官達が、スナイパーを養成する可能性を学んだり、戦闘でどのようにスナイパーを活用するかといった内容のプログラムが削減されたりするのだ。
「ひどい映画や今回のような事件のせい」で、士官たちはスナイパーや関連する言葉を聞くだけで、殺人事件を思い出すのだ。

カルーソは言う。「憎しみを持つ者は銃がなくても殺人を犯せる。ボストンマラソン事件では銃は使われなかった。9.11でも銃は使われなかった。俺は思うんだが、いつかスナイパーってのは超絶技巧的な殺し屋ってことになるんじゃないかね。そして、メディアによれば、そのうちの何人かはただの人殺し野郎ってことになる」





  

Posted by もじゃもじゃ  at 11:28Comments(0)◎戦略関連

2016年07月22日

「現代の軍事戦略」エアパワー古典編

もじゃもじゃです!

「現代の軍事戦略入門」
(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)
本書は、軍事戦略理論を古典から現代までコンパクトにまとめており、軍事戦略の変遷を一般の読者でも理解できる入門書です。
なかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれている一方、基礎となった古典的理論にも、目配りされております。

今回は、本書よりエアパワー古典編として、ドゥーエの戦略思想をご紹介します。

■空だけで勝利!? ドゥーエ
・ジュリオ・ドゥーエは1920年代のイタリア陸軍の将軍。
・エアパワー登場初期から「エアパワー単独で戦争に勝てる」という考え方を提唱。独立空軍の創設を訴えた。
・エアパワーは、陸軍や海軍のように地形や海岸線等の影響を受けることなく、自由に行動が可能であり、地上に兵士を送り込む
 ことなく(自軍の犠牲者を出さずに)戦闘が可能であると主張。その思想は、当初から身内のイタリア陸軍内はじめ各所で議論を巻き起こした。

・代表的著書「制空」
 ①「制空」における第一の要則
  「戦闘行為の勝利は制空を達成することに絶対的に依存している。」
  制空とは敵の飛行を阻止しながら、自分たちは飛べる状態にあること。現代では「航空優勢」と呼ぶべきもの。
  制空権を獲得している側は自国を完全に守ることが可能、一方獲得していない側は人間の創造を絶するような攻撃にさらされることになる。
 ②「制空」における第二の要則
  制空のためには、敵の航空兵力を地上から飛び立たぬうちに破壊したり、航空兵力の装備や物資を供給する企業や工場を爆破すべきである。
 ③「制空」における第三の要則
  敵の重心は「国民」である。航空勢力により、敵国民を爆撃し、パニックに陥れ、精神力を喪失させ、それによって敵政府に対する反乱を引き起こし、戦争を終わらせることができる。ドゥーエはその為には、毒ガスを使うことも主張した。

■ドゥーエの誤り
・ドゥーエの理論の多くは、第二次大戦によって誤りが証明されてしまった。
・レーダーや対空兵器の登場により、航空機は自由に行動できるものではなくなった。
・ドイツのロンドン空襲において、イギリスの民間人は忍耐力を見せた。空襲により、人々の怒りは自国の政府ではなく、敵であるドイツに向けられた。

■それでもドゥーエ
・実戦によって誤りは証明されてしまったが、それでも現代でも通じる議論のカテゴリーや注目すべき要点を作ったという意味でドゥーエの戦略思想は重要である。
・そして、冷戦後の10年間にドゥーエの「エアパワー単独で戦争に勝てる」という理論を証明するような大規模な紛争が発生した。

果たして、ドゥーエの理論は誤りだったのか、それとも現代のテクノロジーによって、ようやく正しさが証明されたのか?
冷戦後の理論については、次回ご紹介する。

アマゾンで買えるドゥーエの著作「戦略論体系(6)ドゥーエ」


Art by Chris Foss



  

Posted by もじゃもじゃ  at 11:28Comments(0)◎戦略関連

2016年07月17日

現代の軍事戦略 ランドパワー現代編

もじゃもじゃです!


「現代の軍事戦略入門」
(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)
本書は、軍事戦略理論を古典から現代までをコンパクトにまとめており、軍事戦略の変遷を一般の読者でも理解できる入門書です。
なかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれている一方、基礎となった古典的理論にも、目配りされております。

今回は本書より、ランドパワーの軍事戦略・現代編として、冷戦期以降の陸の軍事戦略をご紹介。
まず、まとめで流れを概観し、その後、ランドパワーの現代の戦略家について、簡潔にまとめました。


まとめ 冷戦期以降のランドパワー戦略思想の特徴

 ①現代のランドパワーは、小規模でより機動性が高く戦場に分散しているが、情報テクノロジーの発展により効率よく運用される。
 ②通常戦における地上戦は、本質的に非線形の、同時性と同期性をもつ作戦によって特徴づけられる。集中の効果は、情報テクノロジーと精密兵器によって達成されるため、地上部隊の占有面積は減る。
 ③通常戦における地上戦は、「統合的」な活動であり、地上部隊は統合部隊の他の構成要素と密接にリンクされるべき。
 ④テクノロジーは地上部隊の司令官が「丘の向こう側を見る」能力を劇的に上げるが、それらは戦争の「霧」と「摩擦」を消滅させることはできない。
 ⑤行動の決断は末端の部隊にまで任されることになり、下級将校や下士官レベルまで戦いを「戦略的に」理解することが求められる。




■RMAの先駆け アンドリュー・クレピネヴィッチ
・元米陸軍士官
・彼が用いた軍事技術革命(MTR)という用語は、後に1990年代の戦略の議論の中心となったRMA(Revolution in Military Affairs)軍事における革命という概念の先駆けとなった。
・同等の力を持つ交戦者同士の戦いは、空や海からの長射程の攻撃が決定的な要素になり、
 空中、陸上、海洋での作戦が互いに融合していく。
・「新しい情報システムは、集中の原則を破って戦力を分散できる」為、軍事作戦が逐次的ではなく、同時的に行われる「分散型」になる。



■画期的なファランクスの解体 ダグラス・マグレガー
・米退役陸軍大佐。湾岸戦争に従軍。
・「脱集中化」の概念に沿った形で「先進的な火器システムを備えた諸兵科連合部隊が、かつてよりも広い範囲の戦域を支配するようになる」という議論を行っている。
・「ファランクス(密集陣形)の解体」という著書で、師団構成が適切な戦闘編成なのか、という疑問を提出。その上で「脱集中化」した地上部隊をどのように編成すべきかを詳細に説明。
・部隊そのものが小規模で自己完結しており、他軍種と統合できる特化したモジュールによって構成されるべき。
・テクノロジーの発展が戦場の時間と空間を変化させる効果を持ち、伝統的な陸海空ごとの戦役の区別は時代遅れとなり、戦略・作戦・戦術という3つのレベルに分かれた概念的枠組みも同様に時代遅れとなる。


■米軍公式文書
・90年代後半から2000年代初めにかけて発表された「ジョイントビジョン2010」「米陸軍ビジョン」「オブジェクティブ・ フォース・コンセプトについての白書」において、公式に、ランドパワーの戦略思想
 を包括的に詳細に述べられている。
・これら文書でしめされた戦いの特徴としては、地上部隊の作戦が「線形」なものから「非線形」なものへ移っているという認識であり、過去のものよりもはるかに機動性を備えた部隊が、戦場全体に分散した
 状態にある。
・非線形な作戦は、分散して非連続であり、戦場全体に分配されていながらも同時に行動を行うようなもの。敵軍を次第に包囲するような過去の段階的で線形な作戦とは対照的に、敵軍全体を航空・地上双方からの
 攻撃にさらすアプローチ。
・部隊を集中させずに集中の効果を上げる。


■求められる兵士像 ロバート・スケールズ
・米退役少将。元陸軍大学校長。
・現代の兵士はには知性と間接性が必要であることを強調。
 過去の直接的で行動志向のリーダーシップとは対照的に、今日の戦いの本質は「間接的リーダーシップ」
 を必要としている。これは「接触による直接的なものではなく、リアルタイムで考え、企図によって
 戦場に影響を与える能力」
・「戦争はこれまでにないほど頭脳ゲームになっている。戦争は相手の意図を読むこと、信頼を構築すること反対意見を説得すること、そして認識を管理すること」が火力とテクノロジーと同じくらいに勝利の要件
 となっている。

以上、次回はエアパワーの理論についてご紹介予定です。
本書をご紹介することで軍事戦略への理解を深め、複雑な国際情勢をマスコミ等に踊らされることなく、自身で考える一助にしたいと思ってます。
また、本ブログをきっかけに一人でも、本書を含めた戦略書を手に取って頂き、平和や戦争への理解を一緒に深めてくれるとなお嬉しく思います。



ART by Chris Foss





  

Posted by もじゃもじゃ  at 11:00Comments(0)◎戦略関連

2016年07月09日

追悼 トフラー氏 「戦争と平和」

もじゃもじゃです。

「第三の波」で有名な未来学者アルビン・トフラー氏がお亡くなりになりました。
偶然、氏の「戦争と平和」を読んでいる最中だった事と、毎週本ブログでご紹介している「現代の軍事戦略」でも度々言及されていることもあり、今週は「戦争と平和」をご紹介します。

本書はトフラー氏が「第三の波」で予言した情報化社会が、戦争と平和の様相にどのような影響を与えるのかについて書かれたもの。
冒頭に本書を書くいきさつが語られている。
米陸軍のある部門が新しい時代の軍隊をつくる為に「第三の波」を研究しており、トフラー氏に直接話を聞くためにコンタクトしてきた事が、本書が生まれるきっかけだったという。
驚いたのは、軍の将校クラスの8割は大学の修士・博士を取得しているということ。ちなみに、民間の企業の幹部クラスだとその比率は2割に満たないそうだ。

トフラー氏の第三の波とは、いわゆる情報革命のことである。
第一の波が農業革命、第二の波が産業革命。1950年代からトフラー氏は第三の波が社会に到来することを予言していたという。
戦争の戦い方は、社会の各段階の富の創出方法によって異なるという。
第一の波の社会=農業社会では、鍬や鍬、弓矢、槍、剣で戦った。
第二の波の社会=工業化社会では、大量生産の兵器(銃や飛行機、戦車等)で戦った。
そして、第三の波の社会=情報化社会(脱近代 ポストモダン社会)では、スマートな(頭のいい)兵器での戦いになるという。
例えば、衛星からの位置情報によって標的を捕捉し精確に破壊するミサイルなどが、スマートな兵器。
また、スマートな兵器はスマートな兵士でなければ扱えず、今後兵士の知的レベルも大いに求められるという。

第三の波の脱近代(ポストモダン)の軍隊は、脱大量生産・大量消費的でもあるという。
ベトナムや第二次大戦のように、大量の爆弾での絨毯爆撃が工業化社会の象徴的な戦い方であり、今後はむやみに大量破壊を行う方向から、標的を精確に破壊する方向に変わる。
その結果、必要な弾薬の量が減り、機体・車体が軽くなり、スピード・航続距離が向上する。
大量破壊兵器の最たるものが「核兵器」であるが、本書では核兵器の未来については具体的には語られていない。

「現代の軍事戦略」との関連では、画期的な「エア・ランドバトル」の成り立ちについて書かれている。
前述の第三の波研究グループのボスが、「エア・ランドバトル」の生みの親ドン・スターリー。
エア・ランドバトルはソ連崩壊以前、数で圧倒的に勝るソ連軍がヨーロッパ(ドイツ)に侵攻して来た際、核兵器を使わずに、数で劣るNATO軍が対抗する為の戦略である。
数で勝るソ連軍に従来のように戦線で対抗しても突破される。そこで、侵攻してきたソ連軍の奥深くにエアパワーで後続に打撃を与え、補給や通信などを遮断して、先に侵攻してきた部隊を孤立させ、ランドパワーで叩くのがエアランド・バトルの概略である。縦深戦略ともいわれる。
第四次中東戦争がアイディアの源泉であり、ソ連崩壊の1か月前に正式に採用された。

本書の内容は、25年前に書かれたものであるが、今我々がニュース等で知る現実を言い当てている。
逆を言えば、何を今さら感がないとも言えないが、軍事専門家とは違うコンセプチュアルな視点が面白い。
例えば、通常の部隊を大量生産と、特殊部隊を個別少量生産と結び付けたり、紛争・戦争の原因を第一の波の国(農業国)と第二の波の国(工業国)と第三の波の国(情報化社会)の格差に求めたり等。
本書は残念ながら現在は絶版だが、ヤフオクでも見かけるので、気になる方は探してみてはいかがでしょう?

最後に本書で印象的だった言葉を記す。
「しばしば非難されることだが、高級将校たちは前回と同じ戦争を、今一度戦おうと考え、その準備に時間を費やしている。(中略)
平和のために言論活動をしていると思っている知識人、政治家、反戦運動家たちにも時代遅れの高級将校に対するのと同じ批判が向けられて然るべきだということだった」



歩兵の現実的なスマート兵器はこのレベルでしょうか?





  

Posted by もじゃもじゃ  at 08:57Comments(0)◎戦略関連

2016年07月02日

現代の軍事戦略 ランドパワー古典編 その2

もじゃもじゃです。
A.トフラーさんのご冥福をお祈り申し上げます。face06

世界中の戦略家から絶賛される
「現代の軍事戦略入門」(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)
本書は、軍事戦略理論を古典から現代までをコンパクトにまとめており、軍事戦略の変遷を一般の読者でも理解できる入門書です。
なかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれている一方、基礎となった古典的理論にも、目配りされております。

本書をご紹介することで軍事戦略への理解を深め、複雑な国際情勢をマスコミ等に踊らされることなく、自身で考える一助にしたいと思ってます。
また、本ブログをきっかけに一人でも、本書を含めた戦略書を手に取って頂き、平和や戦争への理解を一緒に深めてくれるとなお嬉しく思います。


さて、今回はランドパワー古典編その2として、クラウゼヴィッツとジョミニとご紹介します。
前回の孫子とリデルハートが「間接的アプローチ」とすると、今回のクラウゼヴィッツとジョミニは軍事力の直接的行使を重視した「直接的アプローチ」。

■暴力が戦争のエッセンス クラウゼヴィッツ
・カール・フォン・クラウゼヴィッツ ナポレオン戦争に従軍したプロイセンの将軍。主著「戦争論」
・戦争は暴力行為であり、それには流血と蛮行を含み、敵の破壊への衝動がその中心にある。

チャンスと運
・ 「人間行為のうち、戦争が最もトランプのゲームに似ていると言われる所以(チャンスと運に大きく左右される)がここにある。」

戦争の霧
・情報の不確実性のこと。
 「戦争中に得られた多くの情報は相互に矛盾しており、誤報はそれ以上に多く、さらに大部分は何らかの意味で不確実である。」

摩 擦 
・戦争の遂行というのは、多くの部品によって構成された精緻な機械を動かすことに似ており、それぞれの部品が他の部品と関わっていて、それが摩擦とチャンスにつながる。
「摩擦こそ一見容易なものをして、現実においては困難ならしめる原因である。ある意味で現実の戦争と机上の戦争を一般的に区別する概念である」
※具体的には摩擦とは、遅延や人的ミス、誤解、怠慢等のこと。

均 衡
・敵味方の政治的要求の程度が武力の使用の程度を決定すべきである。
したがって「戦争を始めるにあたっては、戦争によって何を達成し、戦争で何を獲得するつもりなのかをはっきりしていなければならない」
「政治的意図は目的であり、戦争はあくまでも手段である。目的のない手段などおよそ考えられない」
「戦争とは他の手段を交えて行う政治的関係の継続以外のなにものでもない」

三位一体
・戦略レベルにおいて、戦争には「国民」、「司令官と軍隊」、「政府」という3つの力が相互作用として働き、三位一体を構成している。
 3つの力は常に互いの関係性を変化させており、戦争の成り行きに影響を与える。
・「国民」・・国民の間に根源的な暴力、憎悪、敵愾心が存在する。国民に備わっている盲目的自然衝動。
・「司令官と軍隊」・・軍隊の指揮官の勇気と才能、創造的な精神、取り巻くチャンスと蓋然性。
・「政府」・・戦争が政治的な道具として、政府の政治的狙いや戦争の使用に従属すること。

最大限の集中と最大限のスピード、重心
・実際の戦闘の遂行の際の主要な原則「最大限の集中」と「最大限のスピード」
・戦争が決定されるのは常に主戦場であり、それ以外の不必要な時間の浪費や迂回というのは、単なる戦力の無駄遣い。
・集中とスピードの目標が「重心」。すなわち「敵の全体を担う力と運動の中心。」
 ほとんどの場合重心は敵軍の中にあることが多く、次に敵の首都、そして敵の同盟国にある。




■勝利の法則 ジョミニ
・アントワーヌ・アンリ・ジョミニ ナポレオンの参謀も務めたスイス人 主著「戦争概論」
・科学と理性が支配的な啓蒙主義の時代精神に影響を受け、戦争に勝つための原則の発見を目指す。

戦力集中の原則
・ 「戦争で勝利するためには、戦場の決定点に集中させること。その為には、しかるべき時期に十分な力で戦えるように措置しておくこと」

内線作戦線
・敵軍を二つに分断し、まとまっている時よりも弱くしなくてはならない。そのためには、敵軍の中間地点(内線)に位置し、弱点から攻撃し各個撃破していく。 「作戦線の選定は会戦計画策定上の基本重要事項である」
・海上戦の理論にも関心があり、シーパワー論のマハンはジョミニに影響を受けた。


クラウゼヴィッツ関連の書籍(アマゾンへのリンク)
ジョミニ関連の書籍(アマゾンへのリンク)



  

Posted by もじゃもじゃ  at 10:48Comments(0)◎戦略関連

2016年06月24日

「現代の軍事戦略」 ランドパワー古典編 その1

もじゃもじゃです!

世界中の戦略家から絶賛される「現代の軍事戦略入門」(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)
本書は、軍事戦略理論を古典から現代までをコンパクトにまとめており、軍事戦略の変遷を理解できる軍事戦略の入門書です。
なかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれている一方、基礎となった古典的理論にも、目配りされております。
本書をベースに軍事戦略への理解を深め、複雑な国際情勢を自分自身で考えられるようにしたいと思ってます。
また、本ブログをきっかけに一人でも、本書を含めた戦略理論書を手に取って頂き、平和や戦争への理解を一緒に深めてくれるとなお嬉しく思います。

さて、ランドパワー編では、通常戦(例えば、国と国との戦争)におけるランドパワーの戦略をご紹介します。
孫子、クラウゼヴィッツ、ジョミニ、リデルハートの古典的理論をご紹介した後、冷戦後の通常戦の戦略家として、アンドリュー・クレピネヴィッチ、ダグラス・マグレガー、ロバート・スケールズ等をご紹介します。

今回は、古典中の古典孫子と、孫子の戦略を現代に洗練させたリデルハートをご紹介。


■すべの戦いは敵を騙す行為である 孫子「兵法」
・中国春秋時代の思想家孫武の作とされる兵法書。
・「すべの戦いは敵を騙す行為である」欺騙と策略等の間接的アプローチを重視。
 作戦行動が可能でも不可能のように見せかけ、目的地に近づいていてもまだ遠くにいるように見せかける等々。
・軍事戦略の目的は、「天下を無傷のまま手に入れること」であり、理想的には「戦わずして敵を屈服させること」
・戦略レベルでは、敵のアプローチ全体を最初に攻撃せよ。
「軍事力の最高の運用法は、敵の策略を未然に打ち破ること。その次は敵国と友好国との同盟関係を断ち切ること。
最も劣るのは敵の城塞都市を攻撃することである。城塞都市を攻めるという方法は、他に手段がなくてやむを得ず行われるものだ。」
・戦争における精神的影響とリーダーシップの重要性を指摘。


■間接的戦略 リデルハート
・第一次大戦に従軍したイギリスの戦略思想家。
・孫子に傾倒。孫子の通常戦の戦略思想を「間接的アプローチ」として、戦略・戦術レベルの両方で洗練させた。
・「軍事戦略の目的は、敵の抵抗の可能性を減らすことにある。」
 「たとえ決戦がゴールだとしても、戦略の目的は、この決戦を最も有利な状況下において生起させるというものである。その状況がわれにとって有利であればあるほど、それに比例して戦闘は少なくなる。」
・戦術レベルでは敵の抵抗の減少のために、運動と奇襲の利用が必要になってくる。運動は物理的な領域、奇襲は心理的な領域。
 二つの要素が互いに作用して、運動が奇襲をつくり、奇襲がまた運動を推進させる。
・「攪乱」物理的には敵の分断や、補給を危機に陥れたり、撤退経路を脅かすこと。
 心理的には、これら物理的効果によって司令官の頭の中に作られる印象。「しまった!」と感じさせること。
・物理的な要素と心理的な要素が合わさったとき、戦略ははじめて本物の「間接的アプローチ」、すなわち、敵のバランスの
 攪乱を狙ったアプローチとなる。


☆アマゾンで買える孫子関連の本
☆アマゾンで買えるリデルハート関連の本

過去記事:シーパワー 古典編
過去記事:シーパワー 現代編


  

Posted by もじゃもじゃ  at 11:29Comments(0)◎戦略関連

2016年06月17日

「現代の軍事戦略」シーパワー現代編

前回は、現在でもシーパワーについて議論する際の枠組みとなる考え方を提唱した制海論のマハン、海と陸との統合コルベットをご紹介した。
では、マハンとコルベット以降の、現代のシーパワー理論とはどのようなものか?
今回は「現代の軍事戦略」エリノア・スローン著より、シーパワー現代編。


■アメリカの圧倒的なシーパワー
・冷戦後の前提として、ソ連崩壊によって、米海軍は圧倒的なシーパワー国家となり、制海はほぼ達成した。
・懸念事項としては、破たん国家や民族紛争、古くからの民族憎悪の復活、人道面での危機、大量破壊兵器の拡散のような、安全保障についての予測不可能なリスク。
・これによって、西洋諸国の海軍は戦力投射によって地上戦力を支援し、地上における危機管理を助けるような任務を与えられた。
・戦略的な焦点は「海軍は海で何をするべきか」から「海軍は海から何をできるか」というコルベット的方向に移ってきた。



■米海軍、海兵隊の共同戦略文書 「フロム・ザ・シー」と「フォワード・フロム・ザ・シー」

・「フロム・ザ・シー」と「フォワード・フロム・ザ・シー」は米海兵隊と米海軍によるコルベット型の特徴を備えた戦略文書。
 1992年の「フロム・ザ・シー」では「公海での戦闘から、海から行われる統合作戦へ変化する」と謳い、1994年の「フォワード・フロム・ザ・シー」では、「海から(陸への)戦力投射」を再確認。
・両文書の前提は、「海で何が起こっても、結局のところ人間は地上に住んでおり、戦略的インパクトを与えるためには、海軍は少なくとも地上の人間の活動に一定の影響を及ぼさなければならない」
・両文書の主要なコンセプト
 「海軍遠征部隊」米本土から離れた遠距離に位置する土地への危機に対応して、迅速に到着できなければならない。その為には、空母打撃群や水陸両用即応群が前線に近い地域に存在している「前方プレゼンス」が必要。危機への対処は陸軍との「統合作戦」的な形をとる。
「シーベイシング」シーパワーの影響力を地上で発揮するための組織づくりや、それを利用するためのアプローチやコンセプト。冷戦後はアメリカの基地へのアクセスが制限されるかもしれないという懸念から出てきたコンセプト。当初は海軍のコンセプトであったが、9.11以降ペンタゴンも全軍的な重要なコンセプトと認識。



■ネットワーク中心の戦い アーサー・セブロウスキー提督と沿岸域戦
・ネットワーク中心の戦い(NCW)の父と呼ばれる。米海軍提督、米海軍大学校学長。
・対艦巡行ミサイルの精度向上や潜水艦による、沿岸域の大型艦船や空母等の大型プラットフォームのリスク増大。
 対応として、多数で構成されるストリートファイターと呼ばれる小型艦船をネットワークにより緊密に統合。
 分散されて変化し続け、順応性が高く、瞬間的に情報が共有される効率的な軍事力。
 テロ対策、海賊対策、麻薬密輸取締、人道支援・災害援助のサポートまで幅広く対応可能。また沿岸域での戦闘にも適している。
・海軍上層部はNCWのコンセプトを認め、空母と艦船、潜水艦などを密接にネットワーク化した艦隊へと再編。
・ストリートファイターコンセプトは沿岸戦闘艦LCSとしてという形で生き残っている。
 

■マイケル・マレン提督とグローバル海洋パートナーシップ
・海の安全確保はすべての国家の国益につながるものであり、自由市場のもたらす恩恵はすべての人々に分け与えられるものである。
 米国一国では海賊のような非対称的な脅威、3.11の自然災害に対する人道的援助等に対して、すべての海域で対応することは不可能。
 そこで、グローバルな領域で、海というシステムを守るための各国シーパワーとのパートナーシップが不可欠。
 また、米軍はモジュール化され目的によって装備を変えられる艦船、無人機やヘリ、医療チームといった即座に必要となる部隊の
 組み合わせ=グローバル・フリートステーションを創設することで、露骨に攻撃的で費用のかかる空母打撃群を展開する必要が
 なくなる。
 

■まとめ
 ・冷戦後のシーパワーの理論は、沿岸域と地上に対するシーパワーの影響を考察するものがほとんどであった。ソ連の崩壊により、アメリカによる制海が実現した環境下では、マハンのテーマであった艦隊同士の戦術は意味をなさなかった。
 ・しかし、公海上の海賊や中国の外洋艦隊のような脅威や競争者が再び台頭し始めており、昔の理論にもまだ耳を傾けるべきところは残っている。



  

Posted by もじゃもじゃ  at 11:29Comments(0)◎戦略関連

2016年06月09日

現代の軍事戦略 シーパワー古典編

もじゃもじゃです!

世界中の戦略家から絶賛される「現代の軍事戦略入門」(エリノア・スローン著 奥山真司、関根大介訳)

本書は軍事戦略を、古典から現代の理論までをコンパクトにまとめており、軍事戦略の変遷を一般の読者でも理解できる軍事戦略の入門書です。
特色として、専門家でないとなかなか知ることのできない、現代の戦略理論に重点が置かれており、一方基礎となった古典的理論も、簡潔に押さえられています。
この良書をベースに軍事戦略への理解を深め、戦争や複雑な国際情勢をマスコミ等に踊らされることなく、我々自身で考えられるようにしたいと思ってます。
また、本ブログをきっかけに一人でも、本書を含めた戦略理論書を手に取って頂き、理解を一緒に深めてくれるとなお嬉しく思います。

さて、各種の軍事理論がある中で、戦略研究を学ぶものにとって最初の、そして最も重要なステップと言われるシーパワーの理論を、初回はご紹介します。

■本書のまとめによると、シーパワーとは
 ①シーパワーの目的とは沿岸域と海洋で「制海」を可能にすることにある。
 ②シーパワーは精密誘導攻撃や兵站支援を通じて、ランドパワー(陸の兵力)と共に機能させるものである。


このシーパワーの基礎的な考え方を提唱したのが、マハンとコルベット。


①海を制する者が世界を制す アルフレッド・セイヤー・マハン(1814-1914)

 ・アメリカ海軍軍人。「坂の上の雲」でも有名な秋山真之が留学時代に師事していた。
 ・マハンの考えるシーパワーの前提は、海は貿易ルートの広大なハイウェイというもの。その上で艦隊などの軍事力と、貿易ルートによる生産、海運、植民地と市場などの経済・政治力をシーパワーとした。
 ・独自の歴史研究により、「海を制する者が世界を制す」とし、シーパワーの目的は「制海」(シーコントロール)にあると主張。
 ・「制海」は自国の利用と利益のために、貿易が行われる世界の公共財としての海を常にオープンな状態に
  維持し、戦時においては敵国に使わせないことを意味する。
 ・制海のため、艦隊の使命は敵艦隊と交戦し、勝利することにあると主張。
 ・シーパワーというキーワードの発案者。
 ・マハンは、地上部隊を支援するための海軍力の使用を重視していなかった。
 
 

②海は陸のため ジュリアン・コルベット(1854-1922)

・イギリスの学者。民間人の海軍史家。英海軍大学講師。英海軍の改革にも貢献。
・現代でいう「統合戦」=海軍力と地上戦力との統合を提唱。
・戦争は海軍の作戦行動のみにで勝利することはほぼ不可能。なぜならば人は陸に定住しているから。海軍力だけでは陸上の敵戦力を破壊できない為、必然的に戦争は最後は陸上で決着をつけなければならない。 したがって海軍と陸軍との協力によって勝利は可能となる。


次回シーパワー現代編で、冷戦以降のシーパワー理論が、マハン的「制海論」とコルベット的「統合戦理論」のどちらに動いていくのを見ていきます。


日本語で読めるマハンの著作
・「海上権力史論 新装版」原書房刊
・「海軍戦略」中央公論新社刊 (絶版・古本あり)
・「マハン海上権力論集」講談社学術文庫刊

日本語で読めるコルベットの著作
・「戦略論体系 8 コーベット」芙蓉書房出版刊
 ※コルベットはコーベットとも呼ばれる。本書は訳についてのクレーム多し。

コンパクトに読めるマハンとコルベット
「戦略論の名著」中公新書刊 野中郁次郎編著
 ※マハンのみ

・「名著で学ぶ戦争論」日経ビジネス文庫刊 石津朋之編著




実は読みはメイハン・・・らしい

  

Posted by もじゃもじゃ  at 11:29Comments(0)◎戦略関連

2016年06月03日

現代の軍事戦略

もじゃもじゃです!

エリノア・スローン著「現代の軍事戦略」。
本ブログで何度か取り上げたことはあるが、もじゃもじゃの力量不足もあり内容については詳しくご紹介してこなかった。

「現代の軍事戦略入門」は、「シーパワーの理論」「ランドパワーの理論」「エアパワーの理論」「テクノロジーの進化と統合理論」
「ゲリラ戦の理論」「サイバー戦争の理論」「核戦略と抑止理論」「スペースパワーの理論」の8章からなっている。
構成としては、各テーマの古典的理論を紹介したのち、冷戦後の新しい理論を紹介しており、各軍事理論をもじゃもじゃのような素人でも分かるようになっている。

そこで、来週から週に1テーマずつ取り上げて、わかりや~すくご紹介したいと思います。
まずは、シーパワーの理論から、もじゃもじゃ行きま~す!




  

Posted by もじゃもじゃ  at 11:30Comments(0)◎戦略関連